小沢辞任に思う:悪代官と少年探偵団

 小沢さんがとうとう代表辞任を表明された。後任は、鳩山由紀夫さんと岡田克也さんのお二人で争われことになるのだという。今日正式に立候補し、16日に所属議員の投票で決定されるという慌しさである。結局茶番である。これでは小沢さんがお辞めになった意味がない。反小沢派の先生方はどうお考えなのであろうか。
 私は小沢さんの秘書逮捕を受けて、本欄に『小沢さん今は辞めないで下さい』(4月2日)と書いた。その時考えていたのは、政権交代のために小沢さんは欠くことが出来ない人物であるということだ。
 小沢さんの顔はどう繕っても悪代官の顔である。田中角栄さんや金丸信さんの秘蔵っ子であり、数々の武勇伝でならしたところから見ても、一筋縄ではいかない悪の強さばかりが目に付く。私の感性で言えば、嫌いなタイプである。だけど、今のこの時期に政権を本気で取りに行ける人物は、小沢さんしかいないと本気で思っている。
 話は飛ぶが、わが国経済の世界的プレゼンスが高まる一方であった1970年代に、わが日経新聞の記者諸氏たちは「少年探偵団」と揶揄されていた。この時期は日経本紙に加えて、様々な種類の新聞・雑誌を発刊しつつあったところから、日経では極端に人手不足となり、新卒者の大量採用を行っていた。一般紙の経済記者氏は流石にそのような羽目に陥らず、日経の若年ぶりばかりが目立ったために、彼らは「少年探偵団」の異名を頂戴したわけである。
 私は、これは民主党に限らないのだが、若手の議員先生がたがテレビに登場し、発言する様子を見聞きする時に、ついつい「少年探偵団」と呟いてしまう。前原誠司さんの颯爽とした男伊達振りはそれとして、彼がむきになり唇を尖らす度に、どうしても「少年探偵団」が頭を掠めてしまうのである。岡田克也さんにしても基本は同じことである。
 本物の「少年探偵団」は子どもだてらに、事件解決に大きく貢献していた。だがその陰には明智小五郎という大きな存在があったわけだ。「少年探偵団」も活躍するが、それだけではやはり事件の解決には繋がらない。
 民主党もそうしたアナロジーでついつい見てしまう。小沢さんの良し悪しはあろうが、彼がいなければ政権取りなど夢のまた夢の彼方であろう。小沢悪代官と明智名探偵のイメージは何となく重ならないかもしれない。しかし、「少年探偵団」が後ろ盾を必要としている点では同じである。
 結局、小沢辞任の切っ掛けは世論調査の結果であった。結果に慄いた先生がたが反小沢色を強めたことが今回の辞任決断に繋がった。だから「少年探偵団」なのだ。本気で政策で勝負し、正論に殉じる気があるのであれば、選挙の当落など少しも怖くないはずである。政権取りの「選挙」に負けることが辛抱ならないと仰りながら、詰まるところは御身大事。自分の当落への関心しかない。それが見え見えだから、「少年探偵団」なのである。
 今月の文藝春秋(6月号)の対談で、時事通信解説委員長の田崎史郎さんが、「世論調査は、自らの記事のシナリオに沿った結果が出そうな時期にそれを行うものだ」と仰っている。そうであろう。世論調査を無視することは出来ないが、それに100%拘らなければならいほどの代物ではない。にも拘らず、こんなものに振り回されるのであるから噴飯物である。何度でも言う。だから「少年探偵団」には今ひとつ信頼がおけないと言うのだ。もっとも、自民党の先生がただって基本は同じことであろう。どっちもどっちであるが、いずれにしても情けない話である。
 民主党に政権を取って欲しいのは、自民党がもはや自浄能力を維持していないからである。一旦権力の座を失うことによって、出直しを図って欲しいからである。その結果、政界再編と先生がたの新陳代謝が巻き起これば、願ったり叶ったりである。そこには、小沢派も反小沢派もない。小沢さんが悪代官でも、明智名探偵でも、全く関係ないことである。
 「少年探偵団」の先生がたは、どこまでそのことを理解されておられるのであろうか。仄聞するところによれば、次期総選挙で民主党が政権奪取に失敗すれば、分裂の危機に瀕するのがほぼ間違いないのだそうである。そしてその責任が小沢さんに全て負わされることとなる。
 だがしっかり目を開けて見て欲しい。耳の穴をよくかっぽじいて聞いて欲しい。もし次期選挙で政権奪取がならなかったとすれば、それは小沢さんのこと以上に、先生がたの一挙手一投足を見続けて来た国民の厳粛な判断である。落選するのは小沢さんではなく、貴方である。そのことを決して忘れないで頂きたい。