巨匠の慧眼ー米国、北朝鮮、メキシコ繋がり

 トランプ大統領の誕生、北朝鮮の暗躍など、またここへ来て国際情勢が一段ときな臭い。翻って、国際インテリジェンス小説の巨匠トム・クランシーが亡くなったのは、2013年10月1日のことであった。そのクランシーの人気シリーズに”ジャック・ライアン”シリーズがある。このシリーズには、”レッド・オクトーバーを追え””今そこにある危機”など映画化されたものも多いので、小説を読まないでもご存知の方は沢山いらっしゃると思う。長年のフアンである私は彼が亡くなったときは心底落胆した。しかし幸いなことにクランシーの松明は、最後の三作を手伝ったマーク・グリーニーに引き継がれた。そのグリーニーの第一作が米朝開戦である。この内容を新潮文庫の紹介に従って眺めて見よう。
 「北朝鮮が何の前触れもなく、最新鋭のICBM銀河3号日本海に向けて発射し、世界に衝撃が走った。核弾頭の開発が、いよいよ最終段階に達したのか−−−。折しも、元CIA工作担当官がベトナムホーチミン市で何者かに殺害され、北朝鮮に関する極秘書類が奪われた。ジャック・ライアン大統領と〈ザ・キャンパス〉の工作員らが捜索を開始。新たなアジアの危機を回避できるか。」(第1巻)
 「アメリカ海軍艦船〈フリーダム〉は、韓国沖を北進している不審な中型貨物船を発見した。間もなく北朝鮮海域に入ろうとするこの船を、無線で呼び出すも応答はない。停船命令も無視したため、特殊部隊が吸収し、船内から驚くべき物を押収した−−−。一方、米国家情報長官府は、さらなる情報収集のため、さらなる情報収集のため、極秘作戦を練っていた。その遂行に大統領は、意を決してゴー・サインを出すが−−−。」(第2巻)
 「北朝鮮の若き指導者はアメリカの臨検でICBMの部品を押収されたことに激怒し、ジャック・ライアン大統領の暗殺を企てる。その計画はライアンのメキシコ訪問中に地元の麻薬カルテルとイラン人爆弾製造専門家を使って進めることに。一方、米情報機関は北朝鮮レアアース鉱山に関する情報収集のため、スパイを送ることを決断。中国系アメリカ人のCIA工作員が潜入するが−−−。」(第3巻)
 「メキシコに到着したジャック・ライアン大統領。彼を乗せた大型リムジンの車列が、建設中の駐車場ビルにさしかかった瞬間、耳をつんざく凄まじい爆発音が轟き、濃い灰色の煙が、全てを包み込んだ−−−。折しも、アメリカの情報機関は北朝鮮のある重要人物が、中国への亡命を望んでいることを知る。潜入していたCIA工作員が、その人物と接触するが−−−。」(第4巻)
 以上である。この小説のなかでは、米国、北朝鮮、メキシコと話題の国がそろい踏みしている。そして大変怖いことに北朝鮮の謀略は、東南アジアを中心にメキシコをはじめとする全世界に及んでいる。加えて、メキシコを舞台に米大統領の暗殺を企てるのだ。”米朝開戦”は勿論小説である。荒唐無稽な部分もあるが、大筋のプロットは如何にもありえそうである。当地で不人気のトランプさんが仮にメキシコを訪問とした場合、もし何か不穏な動きがあったとき、メキシコの影に隠れて北朝鮮の暗躍があるとすれば、一体全体世界の秩序はどうなってしまうのだろうか。金正男事件を目の当たりにして、怖さも怖しということである。それにしても、巨匠の慧眼=想像力には改めて脱帽である。