安倍さんは自分ファースト ―一将功成りて万骨枯るー

 安倍さんがトランプさんに会いにまた渡米した。日本時間の11日未明から会談が始まるそうであるが、何を話し合うのか? 報道によると、お土産として「50兆円の投資で70万人の雇用創出を図る」という案を持って行ったとのことだ。それもその原資は年金基金。安倍さんははよほど海外がお好きなのか、時間が出来るとこまめに外遊される。そしてその度に、血税で集めた資金であることなどはなから忘れたように大盤振る舞いでお金をばらまく。
 三本の矢も、それこそ矢折れ刀尽きてしまった。そうした惨状を目の当たりにするなかで、なけなしの年金基金までつぎ込んで、大国アメリカになぜ経済援助しなければならないのか。途上国と違ってアメリカにはふんだんにお金はある。そのお金がもっぱらマネーゲームに向かって、投資に向かわないから十分な雇用が確保されない。トランプさんが何と言おうと、アメリカの経済不振は経済政策が無策だからである。今回の投資話は無能なアメリカ政府に代わって、有能な日本政府が有効な手立てを提供するというものである。少しおこがましすぎはしないか? アメリカ・ファースト主義のトランプさんである。こんな案を提示されれば、烈火のごとく怒り出さないのがおかしい。
 しかし安倍さんという人は実に不思議な人である。祖父が岸信介、大叔父が佐藤栄作、父が安倍晋太郎であること以外に、売りがないにも拘わらず、どうしてここまで力を持ってしまったのであろうか? 人物として優秀か否かと言えば、微妙である。昨年の伊勢志摩サミットではリーマンショックの再来懸念をきわめて幼稚な論法で持ち出し、メルケルさん以下の失笑を買ったのは記憶に新しいところである。彼を見ていると、目いっぱい背伸びして「僕ちゃん偉いでしょう」と折にふれて頭をなでてもらいたがる小学生を彷彿とさせる。その好例が、「美しい国、日本」。これも中身がなさすぎて、話題にするのも憚られる。
 昨年亡くなった永六輔さんは、文芸春秋に『テレビが日本人を恥知らずにした』(2016年9月号追加再録)という一文を寄せ、そのなかで、きわめつけは「美しい国、日本」。すごく上滑りな感じがして恥ずかしい。でも、あれが恥ずかしくない人も沢山いるらしいんです。実際これをスローガンにしている総理大臣自身は、何度も演説で引用しているのに、ちっとも恥ずかしそうじゃありません。少し照れてくれるとホッとするのに。そう喝破している。
 安倍さんは識者から見れば、とっくにネタバレしているのに一向に恥ずかしがらない。そうしたところが非常に違和感を感じるところである。安倍さんという人は大変真面目で真摯な人柄なのかもしれない。だが国の中枢に君臨するリーダーでありたいならば、表層的な小学生の俄か勉強ではなく、とても剃刀では切れない骨太の教養を身に付けるべきである。これは単なる知識と言うことではなく、当人の生き様、人生哲学に関わる問題である。
 安倍さんが盤石の基盤を誇れば誇るほど、その危うさが心配になる。安倍さんはどこへ向かおうとして、何がしたいののだろうか? 一向に見えてこないのだが、彼の行動原理を自分ファーストと理解すれば、少しは分かるような気もする。彼の怨念は祖父、大叔父、父にあると仮定して、彼らを何とか凌ぎたい。そうすることしか、積年のコンプレックスを拭うことは出来ない。この仮定が正しいとすれば、安倍さんは大変な危険人物である。安倍船長のもとの日本丸では、一将功成りて万骨枯る状態になって少しも不思議ではない。馬鹿を見るのは、こんなリーダーを冠してしまった無辜の国民である。