目指すはインバウンドの国際化

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 『AGORA(JALカードホルダーのための月刊誌)』5月号の「Cosmopolitans われら地球人」という記事に、永島譲二さんが取り上げられている。永島さんは、BMWのエクステリア・クリエイテイブ・ディレクターを務める人物。1955年に東京で生まれ、78年に武蔵野美術大学工業デザイン学科を卒業後、79年に米ミシガン州ウェイン州立大学大学院デザイン修士課程を修了。その後ヨーロッパに渡り、独オペル、仏ルノーを経て、88年にBMWのデザイン部門に移り現在に至っている。BMWで彼は、代表作であるオープンカーZ3(96年)を皮切りに、”5”シリーズ(96年)、先代”3”シリーズ(05年)、現行モデルのX5、昨年発表された”7”シリーズのデザインを手掛けており、まことに華々しい。まさに「われら地球人」に恥じない活躍ぶりである。
 ヨーロッパでは開発に要する5年間の間に、多数のデザイン案が幾重ものコンペティションで篩にかけられ、そして最終案に辿り着くというシステムが採用されているのだと言う。当たり前のことであるが、心血を注いだデザインが採用されなかった場合、デザイナーの落胆は大きく、人によっては会社を退社してしまう者まで出て来る騒ぎともなる。こうしたシビアな世界であるから、キャリアが30年あっても生産車が一台もないというデザイナーが過半数を占めることにもなる。そうした中で、オペルルノー時代を含めて、数々のデザインが採用されて来た永島さんは稀有な才能の持ち主であるわけだ。
 また現在永島さんは、BMWのデザイン部門への応募者に対する審査の仕事を果たしているということだ。その彼が今危惧しているのは、100の応募中韓国が30を占める一方で、日本人がゼロであることなのだそうだ。自身が若い頃から海外に目を向け、実際にヨーロッパで活躍して来た。そうした「地球人」の目から見れば、近頃の若い人たちの海外志向へのシュリンクぶりは、大変な危機的状況に映るのであろう。これはよく理解出来る。
 しかしここで考えなければならないのは、韓国人の外向き志向である。K−Pop(韓国発のPops)アーティスト、プロ・ゴルフ・プレイヤーなどを見るまでもなく、彼らの海外での活躍は目覚ましい。ところでアジア人は欧米人に比べて、DNA的にリスクを忌避する傾向が強いと言われる。日本人も韓国人もアジア人として同様の傾向にあるのだとすれば、彼らはなぜ海外に敢えて出ようとするのだろうか。要因はいくつか考えられるが、まずは、国内マーケットが小さいという問題があげられよう。また韓国の企業社会は財閥支配による閉塞性も要因が大きいのではないか。
 日本も一杯問題を抱え、閉塞感が漂っているのは事実である。ただそれも相対的には世界的には恵まれていると言えるであろう。それが証拠に日本を訪れる若者が色々な関心を持って、日本にやって来る。テレビ東京で放映する『YOUは何しに日本へ』(毎週月曜日19時〜)という番組では、日本の伝統文化・芸能、風俗、食文化、アニメ・コスプレ・アイドルなどのザブカルチャーに興味を持った若者を中心に世界中からやって来る現状が、繰り返し繰り返し紹介される。
 そうした若者で驚異的なのは、アニメならアニメを理解したい一心で、日本に一度も来たことがないにも拘わらず、日本語語をしっかりマスターしている者が多いということだ。古い頭では、国際人たる者は英語を流ちょうに話し、海外を舞台に活躍するものと考えがちであるが、その時代はもしかしたら、とっくに過ぎ去っているのではないのだろうか。要するに、インバウンドの国際化が始まっているということであろう。若者が海外に出て行きたがらないのは、そうした新しい国際化の進展を皮膚感覚で感じているからではないだろうか。
 いずれにしても、高いお金を払って日本に外国人がやって来るのは、彼らは彼らなりに日本に魅力を感じているからであることは間違いない。今大切にしなければならないのは、日本人が延々と培って来たサブカルチャーを含む広い意味での文化である。国際化は発信するものと受信するものがあってこそ成立する。新しい国際化を真剣に考えることが、経済を中心とした閉塞状況の打開に繋がるということではないのだろうか。若者を単純に海外へ誘うのではなく、内向きの若者にも期待しなければならないということだ。