「マイナス金利の導入」はこれで大丈夫か?

 以下の原稿は2008年10月5日時点で書いたものである。その後なぜかアイデアを日銀は黒田総裁にパクられてしまい(?)、もはやオリジナリティを証明するのは至難の業となってしまった。もっとも、私が8年前にマイナス金利を論じていたことについては、信じてくれる人だけ信じてくれればよい話ではある。

(2008年10月5日に書いた下書き原稿)
 基本的に、名目金利はゼロ以下に下げられない。政策的にもっと下げなければならない状況でも、金利がゼロになれば、そこで”金利”による景気刺激策はジ・エンドとなってしまう。常識的には当たり前のことである。
 これを識者に話すと大抵の場合一笑に付されてしまうのだが、私は元来”マイナス”金利の採用を主張している。マイナス金利とは何か? 極めて単純に言えば、それは預金者から金利を徴求し、借入者に金利を付与することである。
 借入者に金利を払うことは未だ実現していない。しかし、実質的に、預金者からの”金利”徴求は既に実現している。口座維持手数料を始めとする種々の手数料を考慮すれば、それが言えるのだ。ATM利用料を考えてみよう。たとえば、千円ぽっきり引き出す場合でも、容赦なく手数料は百円徴求される。他方、千円の預金に対する金利は一円にも満たない。つまりこのことは、「預金金利−手数料」で見れば、マイナスになってしまう場合も多いということだ。これは、まさしくマイナス金利状態である。
 一方、借入者からは相変わらず低利であっても金利を徴求している。それどころか、フィービジネス強化の掛け声の下、借入者からの手数料徴求にも力瘤が入る。要するに、現状のわが国の金融機関は預金者から金利を頂戴するのみならず、借入者からも金利を頂いているということである。従来は「借入者から金利を得(+)、預金者へ金利を払う(−)」のが一般的であった。しかし昨今では、「借入者からも金利等を徴求し(+)、預金者からも金利を徴求する(+)」ことになっているわけだ。
 本来ゼロ金利の場合、預金者へは「景気がよくなったら金利をお付けしますから今は金利をお支払い下さい」とお願いし、借入者へは「金利をお付けしますからどうぞお借入り下さい」とするのが妥当であるはずだ? そうでなければ金融機関の丸儲けに終わってしまう(金融機関は否定するであろうが…)。これではマイナスの金利を梃子として景気回復を図ると言っても、金融機関の収益確保のモメントが必要以上に働けば、英断をもって採用した”ゼロ金利”政策も効果が著しく減殺せれてしまう。くれぐれも注意すべきである。

 以上が8年前の私の議論である。時間軸的には「後出しじゃんけん」と捉える向きもあろうが、それはそれで構わない。今さらこのダイアリーをリリースしたのは、「なぜゼロ金利が景気に好影響を与えないのか」ということについて真剣に検討する必要性を認めるからである。マイナスの金利には金利の負の所得効果も働くはずであり、そのことの議論が如何にも少ない。現政権の経済政策は企業よりのものが多いが、それでいいのかという問題提起である。