私の「青春の一冊」

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 私の「青春の一冊」は、何と言っても庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』だ。この作品の初出は、忘れもしない『中央公論』の1969年5月号であった。
 1969年という年は1月に東大安田講堂の攻防戦があり、当時私は大学2年であった。大学はロックアウトされており、ノンポリの私は下宿で万年床に転がって小説三昧の日々を送っていた。その時出会ったのが、この『赤頭巾ちゃん気をつけて』である。
 これでは、学生運動の煽りで東大入試が中止になるなか、日比谷高生・薫ちゃんの日常が描かれていた。軽妙なタッチの筆遣いについつい惑わされてしまうが、追及される主題は、真の知性であったり、戦後民主主義であったりと実に重い。だがそうした重いテーマを表面的には少しも感じさせずに読ませてしまうのが、庄司薫の力量と言えよう。純文学は、大江健三郎安部公房としっかり思い込んでいた私の眼には、実に新鮮であったのだ。
 加えて都会のエリート高生・薫ちゃんとガールフレンドの由美が醸し出す世界は、田舎育ちの私には憧憬が強いだけに眩しすぎるものであった。なおもっと率直に言えば、この憧れは由美へのものが大きく、後に映画化された時に由美役を演じた森和代さんに一時期夢中にもなってしまった。恥ずかしながら由美の「舌かんで死んじゃう」の決め台詞には、すっかり心が鷲づかみにもされたのである。
 いずれにしても薫ちゃんは、私がどう逆立ちしても追いつかない世界の住人で、ひたすらコンプレックスを掻き立てる存在であり、それが分かっているだけになお憧れが募るということであったのであろう。コンプレックスと憧憬の混在が青春であるとすれば、「青春の一冊」ということで、外せないのがこの『赤頭巾ちゃん気をつけて』なのである。