電機各社の純益リーマン前超えに思う

 10日付の日経新聞一面に、『電機8社純利益リーマン前超え』という記事が載せられていた。これは電機大手の業績が急回復し、8社合計で見た2010年4~9月期の連結純利益が08年4~9月期(リーマン前)の1.4倍に達したというもの。その要因はリストラに加えて、家電エコポイントや新興国需要が追い風となったということである。
 日経はこの事象を手放しで評価しているようであるが、いい機会なので、国民経済と企業業績の関係を考えてみたい。
 GDP国内総生産)は生産・分配・支出の三面からアプローチして捕捉することができる。そしてこれら生産・分配・支出は定義的に一致するものであり、こうした一致現象を捉えて「三面等価原理」という。
 一般にGDPは支出面から示されることが多く、「支出GDP」は、民間最終消費支出(=個人消費)、政府最終消費支出、総固定資本形成(=民間設備投資+公共投資)、在庫品増加(=在庫投資)、財貨・サービスの輸出(=輸出等)を合計し、それから財貨・サービスの輸入(=輸入等)を控除することによって計算される。
 また「分配GDP」は、雇用者報酬、営業余剰・混合所得(=企業収益)、固定資本減耗(=減価償却+除却)、生産・輸入品に課せられる税(=間接税)の合計から、補助金を差し引くことによって計算される。
 「分配GDP」の定義から明らかなように単純に考えて、営業余剰等すなわち企業収益が増えればGDPは増加する。しかし一方で問題であるのは、補助金が増加すればGDPが減少することである。エコポイントは補助金的にカウントされてよいはずのものであるから、国民経済的には企業収益が回復したとしても、それが補助金に支えられたものであるとするならば、その回復は割り引いて考えなければならない。手放しでは喜べないということである。
 この場合やや複雑なのは、こうした補助金的支出が企業に直接支払われずに個人に帰属することである。これは個人に与えられようが企業に与えられようが、政府が税収の一部を割いて国民に支給するものである以上性格は一緒とみてよい。誤解を怖れずにいえば、実質は個人を迂回した企業への間接的補助金といってよいのであろう。
 加えて今般の大手電機各社の収益回復には、リストラの効果が大きいとすれば、国民経済的にはさらにマイナスの要素が大きくなる。日経新聞は、マクロ経済の振興に関心があるのか、企業の盛衰に関心があるのかよく分からないが、少なくとも単なる業界紙でないのだとすれば、「企業収益が回復したから目出度しめでたし」というだけではなく、もう少し国民経済の視点で切り込んだ分析を読者に伝えなければならない。とりわけ最近の日経に物足りなさを感じるのは、こうした点スタンスに原因がある。