歓迎される現実路線への転換と小沢軍団の今後

 参院選挙に向けた民主党マニフェストが明らかにされた。これを18日付け日経新聞に従って自民党のものと比べて見ることとしよう。
 第一に、成長戦略。民主:2020年度までの平均で名目成長率3%超、自民:2012年度に名目成長率4%。
 第二に、財政運営。民主:2020年度までに基礎的財政赤字を黒字化、自民:10年以内に基礎的財政収支黒字化。
 第三に、消費税。民主:消費税を含む税制抜本改革に関する協議を超党派で開始、自民:当面10%とし社会保障費と少子化対策に充当。
 第四に、社会保障。民主:年金一元化と最低保障年金実現のためにも税制抜本改革、自民:年金の受給資格期間を25年から10年に。
 第五に、日米関係。民主:日米同盟を深化、自民:強固な日米同盟の再構築。
 以上である。昨年の衆院選挙向けのマニフェストは自民との差を強調するあまりであろうが、奇を衒ったものが多く、子供手当、高速無料化をはじめとして、相当程度受け入れがたいものが多かった。だが今回のマニフェストでは幻惑的な公約が鳴りを潜め、漸く地に足が着き始めたとの印象を強く感じる。
 もっともその分、自民との主張差が小さくなったが、これはこれで両党ともに現実路線の範疇で議論を戦わせればいいわけである。元来政権交代の可能性を前提とした二大政党制というのはこういうものなのであろう。すったもんだはあったが、これでやっと政権交代の実が実を結び始めるということだ。
 本欄で何度も書いているように、民主党は必要以上にマニフェストに拘ってきたが、昨年の選挙では国民の多くは民主党の政策を支持したわけではない。何時まで経っても族議員世襲議員が跋扈するばかりで、一向に変わる様子を見せない自民党に流石に愛想が尽きたというのがことの本質であった。
 民主党の政策は選挙目当てが見え見えのまさしくばら撒き政策であって、このまま行けば、識者の指摘を待つまでもなくただでさえ覚束ない国家財政が一層疲弊することは目に見えていた。国民はそこまで馬鹿ではない。ギリシャのように財政破綻をしてまでも大盤振る舞いを期待しているわけではない。
 今回財政規律を強く打ち出し、消費税の議論をタブー視しなくなったことを私は声高に評価したい。こんな当たり前の結論に到達するためには、ちょっと回り道がすぎた。ただ何かと批判の多い鳩山政権であるが、これは事態正常化に向けての生みの苦しみであったということであるのかもしれない。
 小沢さんは兎に角選挙至上主義で、選挙に勝つために政策は全て選挙対策。前原さんが怒ったように、一方で道路財源の手当を指示しておきながら、高速料金の値上げはびた一文まからん。社会保障費財源の確保のためには消費税の議論は絶対に避けて通れないにも拘わらず、税率引き上げは一切口にすることすら許さない。誰の目のにも目一杯矛盾だらけである。
 こうした矛盾は政府と党の権力の二重構造のなせるわざである。首班交代によって内閣支持率が急回復したのは、鳩山さんが小沢さんを一緒に引きずり降ろしたことによって、二重支配構造が終焉することの期待が高まったからである。マスコミに踊らされすぎる嫌いはあるが、その実国民はしっかり真実を見つめていたのだ。
 小沢さんは参院選挙に勝ったあと、どのような展望を持っていたのであろうか。今問われているのはそのことである。昨年の衆院選挙は兎に角政権交代が至上命題であった。だからマニフェストの多くの矛盾に気がついていた国民も、民主党を支持した。しかし熱気から醒めた国民は何時までも政策の矛盾に目を瞑ってはいなかった。
 鳩山さんばかりが右代表で非難の集中砲火を浴びるばかりであったが、その裏には古い自民党の体質を引きずり選挙至上主義に邁進する小沢さんへの強い批判があったことは間違いない。鳩山さんが思いもかけず、小沢さんを巻き込んで連れション辞任を演じたことが国民の支持を復活させた。
 今小沢9月復活説がまことしやかに囁かれているようである。もし9月に小沢さんの復権があるようならば、政権は再び動揺することになる。政治は先生がたの玩具ではない。その場合、今度こそ早期の解散総選挙は免れがたい。実際のところ、150人に上ると言われる小沢軍団の先生がたが何を考えているかは分からない。
 だが確たる政策展望を持たないまま、ただただ御身大事で小沢支持を続け、この一月間の情勢変化の重要性を理解していないのだとすれば、次の選挙の結果は決まったも同然である。改むるに愧ずることなかれ。小沢さんの歴史的役割は先の衆院選挙で既に終えている。そのことに如何に多くの小沢軍団の先生がたがお気づきになるかということが、民主党の今後、惹いては日本の将来を決めることとなる。そのことをしっかりと見つめて欲しいのだ。