タレント候補の擁立:また愚行を繰り返すのか?

 これまで私は自民党支配の宿痾からの癒しを期して、小沢・鳩山ご両人の金銭問題、政策的迷走などに目を瞑って民主党に肩入れしてきた。色々あるが、折角誕生した新政権である。長い目で見てやらなければ、これまでの努力が水泡に帰してしまう。その一心であった。
 しかしながら仏の顔も三度まで。今度という今度はまったく呆れ返ってしまった。参議院選谷亮子さんや池谷幸雄さんをはじめとするスポーツ選手等の著名人を多数擁立するのだという。スポーツ選手として一流であるかもしれないが、政治は素人である。この混乱の時代に彼らが政治家として適しているとは到底思えない。要するに体育会系集団と揶揄される小沢グループに、本物の体育会系を登用するということなのであろうか?
 その昔、参議院は「良識の府」と呼ばれた。戦後GHQ貴族院を廃止し衆議院だけを残す一院制を主張したのに対して、わが国の識者は、戦前の軍部の暴走を許した衆議院における衆愚政治への深い反省から、衆議院をチェックするために参議院を設け二院制とすることを対案とした。こうした誕生の経緯から、参議院には、再び衆愚政治に陥ることなどがないよう、良識を働かせ政治を間違った道に進ませないようにとの期待が大きかったわけである。
 それが現実は衆議院と同じように政党が支配することによって、チェック機能はどこかに追いやられ、単なる法案成立マシーンに堕してしまった。これではまったく二院制の意味がない。参議院不要論が台頭するゆえんである。だが制度がある限りはその機能活用に努めなければならない。まして衆議院が法案成立のために、数頼みで強行採決を繰り返すだけの機関であるとするならば、現在ほど参議院の本来的役割が求められる時代はないと言ってよい。
 参議院議員の資質としては政党政治から離れて、自らの良心に従って政策判断の出来る人物が求められるということだ。谷さんや池谷さんはそこのところをしっかり理解しておられるのだろうか? はっきり言って、小沢さんは彼らにそんなことは微塵も期待などしていない。人寄せパンダとしての期待しかないであろう。
 谷さん、池谷さん。そんな分かりきった画策に、貴方がたはなぜ軽々に乗ってしまうのでしょうか? 今からでも遅くはない。自らの足らざるを知り、華麗な経歴を汚さないためにも是非立候補はお止めなさい。まともな有権者には、貴方がたの立候補は甚だ迷惑な話である。
 それにしてもこうした小沢さんの手法はアナクロもいいところで、もう本当に辟易である。そしてそれよりも何よりも、国民に人寄せパンダを宛がえば票が獲得できるという、きわめて国民を愚弄した発想。これは戦後の識者が懸念した衆愚政治参議院に持ち込むということである。
 繰り返す。参議院は発足の精神に立ち返って名実ともに「良識の府」とならなければならない。そうした観点と、人寄せパンダで数頼みの政治は相容れない。小沢さんには憲政の理想も何もないのであろう。要は参議院でも安定多数を獲得し、実質一院制を目論んでいるということでしかない。
 子供手当や高速の無料化。こんなものは受益者である国民にとって、「あってもいいか」程度の認識にすぎない。子供手当や高速無料化のバラマキの陰で、もっとはるかに優先度の高い政策が圧殺され、結果はまたぞろ借金の山である。国家予算の半分以上が借金という異常事態のなかで遂行する政策としては、あってはならない代物である。
 参議院に良識を取り戻さなければ、こうした異常が正常となってしまう。谷さんに限らず、立候補を決意した広義のタレントの皆さんはそこまでの認識をお持ちなのであろうか? 参議院は「良識の府」である。この義に照らして、タレント候補の皆さんは自らの良識と見識を是非確認して頂きたい。そうすれば結論は自ずから出てくるはずである。
 もっともその前に、元凶である小沢さんは自らの不明を深く恥じるべきであろう。人寄せパンダ頼みの選挙で勝ち抜けるほど、今回の選挙は甘くはない。金権体質には目を瞑っても、これだけあからさまな衆愚政治には我慢できない。国民はそこまで馬鹿ではない。今求められているのは正しい政策であり、それに向けての論議である。
 昨年の衆院選は時の勢いであった。けっして小沢さんの力ではない。小沢さん及び民主党の先生がたはそのことを本当に認識しておられないのであろうか? 前にも書いたが、政治家の本懐は自らの名を後世に残すことである。選挙の勝ち負けではない。そのためには国家百年の計に資する活躍しかない。小沢さんも鳩山さんも折角そうした地位にありながらそれが出来ないのは、やはり残念ながら自らの資質の問題と思わざるをえない。