内需振興は「量入制出」で考えよ

 トヨタ問題がなかなか片付かない。私は、この問題の根源は政治力を持たない国の企業が間違えて世界の№1になってしまったということだと考えている。企業が世界で№1の地位を確保するためには、その企業が属する国家の圧倒的な政治力が必要とされるわけである。政治力を有する国としてはアメリカを嚆矢として、中国はもとよりイラン・北朝鮮なども含まれよう。この場合政治力=わがままと考えて頂いて結構である。
 要はある場合には強行策も辞さず、またある場合にはソフト路線で懐柔するといったように、手練手管を尽くして国益を守り通すことの出来る国家がバックになければ、世界№1にはなれてもなっては駄目だということである。トヨタ問題は章男さんも不甲斐ないが、その前の番頭さんたちが後先も考えずに悪乗りしたことの結果の悲劇である。
 わが国でトヨタが評価されるのは輸出で外貨を稼ぎ、国に多大な富をもたらすからということであろう。今日はこの問題を考えてみたい。
 明治の富国強兵路線以降、わが国においては一貫して輸出振興が叫ばれて来た。なぜか? 資源に乏しいわが国においては、国内の景気がよくなってその結果輸入が増えれば、すぐに国際収支の天井にぶち当たることが多かったからだ。国際収支が天井に達すれば、手許不如意になって輸入代金を支払うことが出来なくなってしまう。だから輸出振興が国是とされたのである。
 ここで示唆的なのは、これまであまり一般に表面化することは少なかったが、要は輸出は輸入のためにするということである。このことを忘れてわれわれは只管輸出が増えればハッピーという思考に染まってしまい、未だその誤解から抜け出せていないというのが現実であるわけだ。
 翻って国内総生産は、GDP内需+輸出−輸入という式で表される。この式から輸出が増えればGDPも増え、輸入が増えればGDPは減ることとなる。GDPが増えることがよいことだという立ち場からは、輸出国であることは当然是認される。
 だが国内需要に焦点を当てればまた違った見方がされる。すなわち上式を変換して内需を左辺に持ってくれば、内需GDP+輸入−輸出ということとなる。この式では、輸入が増えれば内需も増え、輸出が増えれば内需が減ることとなる。
 国内で生産したものを海外に輸出するということは、国内での費消を抑えてそれを輸出に回すということである。すなわち国内で指を咥えている一方、その生産物を外国人が楽しむということだ。達観すれば輸出立国というのはそうした構造でしかない。輸出立国は我慢の哲学なのである。
 勿論輸出が増加して外貨を稼げば外貨という預金が貯まる。そうした預金を媒介させて内需を喚起し、輸出の増加に比例して輸入が増えれば、GDPは拡大再生産に向かうこととなる。これが目出度し目出度しのシナリオである。だが現実はどうであろうか?
 実態的に、稼ぎ出した外貨が全て円に返還されてそれが即国内の購買力になることはない。マクロ的に外貨の大半は外貨資産(多くはドル資産)として貯蓄され、そしてそれが再度外国に投資される。すなわち外貨資産という海外金融資産が手許に残っているだけなのである。
 国内の金融資産であれば、預金が貸出や投資となってやがて設備投資を促し、投資が消費や新たな投資を生むことによって国内生産に寄与する。だが外国に投資された資産は金利や配当は生むかもしれないが、国内の生産に寄与することはない。
 またそれに加えて、外貨を外貨のままで持っていれば当然為替リスクを抱えることとなり、円高が進行すれば資産がどんどん目減りする。それが昨今の現状である。内需が芳しくなくてもトヨタを筆頭とする輸出企業が頑張ったお陰でGDPはそこそこ下支えされた。にも拘らず、次の回復過程にステージが移らなかったのは、稼ぎ出した外貨が国内に還流せずに、しかも折角貯めた外貨資産が円高によって激しく目減りしてしまったからなのである。
 これでも輸出企業は讃美出来るであろうか? 輸出振興を企業経営の立場で考えれば、収益拡大のチャンスでありそれは正しい。だがマクロで考えれば、輸出振興は必ずしも国益に適う政策ではない場合があるということだ。
 そのことを忘れてトヨタが倒れれば日本が駄目になるといった議論ばかりが罷り通っているが、それは絶対に正しくない。アメリカが典型的であるが、成熟した経済大国に輸出立国は無理であるし、それは必ずしも国民経済的な富を保証するものでもない。
 資源に乏しいわが国から輸出産業を撲滅することは勿論出来ることではないし、正しい方向性ではない。私が言いたいのは、闇雲にGDPを支えるために輸出産業に頼るような愚策はもうお終いにしなければならないということだ。つまりは内需振興を真剣に考えなければならないということだ。
 内需振興も唱えられて久しいが、それが遅々として進まないのは国の覚悟が見えないからだ。輸出産業の限界を見極めようともせず、自動車や家電にエコポイントをばら撒いて流れに掉さす。自民党政権のみならず、序でに民主党もその愚に右へ倣いしてしまう。内需振興をお題目に、結果的に、輸出産業である自動車メーカーや家電メーカーを保護してしまうことが問題であるのに、その議論を誰もしようとしない。おまけに輸出頼みの成長を図れば、本来わが国に帰属させる必要のないCO2の負担までさせられることとなる。
 輸出入の問題は「量入制出」で考えるべきなのである。「量入制出」は本来財政の考え方である。すなわち「入る=税収」を量って、「出ずる=財政支出」を制する。これと同様に、本来的な内需振興策は、「入る=輸入」を量って、「出ずる=輸出」を制することから考えなければならないということだ。
 要は必要な内需をバランスよく成長させるためには、輸出入のバランスを図らなければならないということなのである。GDPの切り口を内需に変えると、輸出入の見え方が変わって来る。そのことの議論が如何にも少ないのだ。