ETCへの怨念から

 私はそもそもETCに大きな不信感を抱いている。ETCなるものは高速利用者への便宜提供というよりはむしろ、高速会社側の料金徴収に関する合理化を第一義に目論んだものであろう。結果として料金所における混雑が多少緩和されたとしても、それは飽くまでも副次的効果にすぎない。間違えてはいけない。高速会社の合理化のために利用者がなぜETC設置を負担しなければならないかということをまず考えるべきである。
 だから私は普段あまり高速に乗らないということもあって、ETCを設置してこなかった。そこへ1000円への値下げ。加えて最近入会したカード会社からETCカードが送られてきたことも手伝い、正直やや気持ちがぐらついた。しかし好事魔多し(?)。未だ設置に予約待ちの状況と聞いてはまたぞろへそ曲がり精神が鎌首もたげ、すっかり正気に返ってしまった。ETCごときに心揺らいだ自分が恥ずかしい。
 それにしても今回のETC料金値下げは実に問題が多い。誰が考えたのか知らないが、定額給付金値下げ以上の世紀の大愚策である。民主党が打ち出す政策もばら撒き色・人気取り色の強いものが多く困ったものであるが、それにしても麻生内閣が打ち出した経済対策は支離滅裂で目を覆うばかりである。本欄では、財政政策が景気浮揚策として有効性を欠く公算の大きいことを何度も指摘した。財政支出に効果が認められなければ、これは孫・子の代に借金の山を残すことに他ならない。
 では財政政策はもはや全く有用性を失ってしまったのであろうか。少なくとも「無用な穴を掘って埋めても、雇用対策」というような考え方の有効性は失われていることは間違いない。これは兎にも角にもカネをばら撒き、モノが売れればそれでよしとする刹那的な考え方である。極端な話、一時大いに話題を呼んだ政府紙幣を目一杯印刷して空からばら撒き、それが例え麻薬購入に当てられたとしても目出たし目出たしということと同じである。
 私は財政政策を景気浮揚目的に割り当てる場合にも、これは国家戦略に資するものでなければならないと考えている。このことは過去景気対策の名の下に無用な道路やダム、施設が野放図に作られ、その付けが巨額の財政赤字の原因となっていることを想起するだけで充分であろう。財政赤字が許されるのは、もはや無邪気で古典的な財政政策などではない。財政赤字は必ずや孫・子の負担となる。ということは財政赤字が許されるのは、孫・子の代の社会インフラ作りに資するものに限らなければならないということである。そこに国家戦略の出番がある。国家戦略は概ね孫・子の代のインフラ形成に繋がるものであるからだ。
 現行の政府においてもその浸透度は兎も角、国家戦略として「科学技術創造立国」構想が掲げられている。天然資源に極端に乏しく人知を結集しなければ、激しい国際競争を勝ち抜いていけないという意味において、「金融立国」構想などより国家戦略としてはるかに好ましいものだと理解する。また国際競争を勝ち抜く以外にも、科学技術は地球環境問題、少子高齢化問題等々の懸案事項の解決にソリューションを提供するものであることは間違いない。
 「科学技術創造立国」構想は「科学技術基本計画」の中で推進され、現在は第3期5年計画の4年目に当たっている。なお本計画には既に多大な予算が投下され、現行計画でも毎年5兆円の予算投入が計画されている。今期計画は財源不足が高じる一方で総額25兆円と予算自体が巨額であることも手伝って、これまで計画額の達成が危ぶまれてきた。そこへ今回の危機。今年度は本予算も補正予算も手厚い措置がとられ、昨年度までの軌道修正が図られた。これは私としては極めて正しい政策であると思う(もっともこの遂行に問題がないわけではないが、ここではこれ以上触れない)。
 こうした国家戦略の遂行と比べて、ETC料金値下げは如何にもスケールが小さく姑息である。ただそうしたことに目をつぶったとしても、この政策は弊害が大きすぎる。第一に、必要以上の渋滞を引き起こし環境保全に逆行していること、第二に、一般車両の渋滞がトラック・バスへ影響し流通・公共輸送の障害となっていること、第三に、ETC非搭載車両を差別するものであること、等々。如何に緊急事態であろうとも、政策の整合性は厳に保証されなければならない。それが滅茶苦茶であることは政策が政策として体をなしていないということだ。これも国民への付けは大きい。1000円料金などに決して浮かれていてはいけないのである。
 与謝野大臣は経済政策通という噂である。だが私は彼がこれら一連の政策を認めたことから見て、経済政策通の看板はおかしいと思っていた。国を思い、孫・子の時代に配意し、そして政治家として理念を貫くのであれば、こんなはちゃめちゃな政策は出しようがないはずである。端無くも与謝野さんのメッキは、解散を巡る自民党のどたばた劇の中で露呈した。自民党の重鎮・政策通も所詮こんなものである。麻生さんばかりが矢面に立っているが、麻生批判を自らのことと理解しないから自民党は自壊するのである。