“アルカイダの友達の友達”大臣 vs. “公然わいせつ?”タレント

 今朝出勤してびっくりしたのは、定期購読している何時もの朝刊に混じって、スポーツ紙があったことだ。不思議だったので担当者に聞いたところ、どうも新聞販売店のサービスということのようであった。そのスポーツ紙の一面に踊っていたのは、“全裸”“わいせつ”“草なぎ”の巨大な見出しである。
 そうした目で一般紙を見てみると、朝日は比較的客観的な書き方をしていたが、読売は社会面で大きく取り上げ、それも内容はかなり批判的であった。だがこの事件(=椿事?)は社会の公器たる大新聞やテレビが、真剣に取り上げなければならないほど重要なものであったのだろうか?
 言ってしまえば、有名タレントが泥酔して夜中の公園で“全裸”で騒いでいた。ただそれだけのことである。警察は公然わいせつの罪で逮捕したということである。しかし夜中の公園である。何人の人がそれを目撃し、不快な思いをしたというのであろうか? 娘に言わせれば、新歓コンパラッシュの、今の時期の高田馬場あたりに行けば、こんな光景はいくらでも見られるということだ。公平を期すのであれば、彼ら学生も一網打尽にすればよい。
 本件に関しては、草なぎ剛君は実にアン・ラックであったとしか言いようがない。2003年6月には笑福亭鶴瓶さんの「局部もろだし」事件があった。アクシデントとは言え、テレビに鶴瓶さんの局部が打ちし出されてしまったのである。理由の如何は別にして、公共の電波に局部の映像が流れてしまったことに間違いはない。これこそが、本当の「わいせつ物”チン”列」罪ではないのか?
 今回の事件が世間の常識を超えて大きくなってしまったのは、第一に、警察官による現行犯逮捕・家宅捜索、第二に、鳩山邦夫総務大臣の「絶対許せない」発言、第三に、ネタ切れマスコミの格好の餌食にされたこと、等々によるものと思われる。
 この中で、特殊であるのは第二の要因である。鳩山さんが執拗に批判したのは、草なぎ君のイメージ低下が、ただでさえ批判の多い「地デジ」に飛び火することを怖れたためである。そのことが、鳩山さんの必要以上に強い発言となって現れたのであろう。草なぎ君の不運である。
 総務大臣というのは戦前で言えば内務大臣である。強大な権力の集中するお役所の長である。まして総務省は放送業界の生殺与奪の権を一手に握っているわけである。そうしたお役所の長にしては、今回の発言はその重みを全く考えておられない。
 翻ってそもそも鳩山さんに、草なぎ君を糾弾する資格はあるのだろうか? 鳩山さんは失言居士でもある。中でも法務大臣時代の「友人の友人がアルカイダ」発言は衝撃的であった。これは単なる失言ではない。しかもその発言の場が、外国特派員協会の講演というおまけつきである。
 法務大臣という国家秩序の維持にもっとも腐心しなければならないご当人が、この体たらくである。「友達の友達は、皆友達だ」とまでは言わないが、そうした怪しげな人物と友達であることを公然と、それも外国人記者の前で言ってしまうセンスはとても政治家のものとは思われない。
 この事件について、ご当人は全く反省していないようである。時の福田総理や町村官房長官から相応のお叱りは頂いたようであるが、更迭されることはなかった。否それどころから麻生内閣の下では現職の総務大臣に横滑りさえしているのである。こうした人物に草なぎ批判など、フアンならずともされたくないものである。
 鳩山さんは、わが国における数少ない正真正銘のイスタブリッシュメント・メンバーである。曽祖父が衆院議長、祖父が総理大臣、父が大蔵次官から外務大臣、おまけに母親はブリジストン・石橋家の出身である。これだけ見ると、麻生総理や安倍元総理などと遜色ないが、決定的に違うのは鳩山さんが東大法学部の出身であることだ。つまり彼は政界の中でも、三拍子も四拍子も揃った貴公子なのである。その鳩山さんが相手なのであるから、草なぎ君はまこと分が悪い。
 だが繰り返す。草なぎ剛君は微罪である。こんなに袋叩きにされ、場合によってはタレント生命を揺るがすに足るような“大”犯罪人ではない。彼が“大”犯罪人にされかかっているのは、セレブ鳩山がたまたま総務大臣の職にある一方で、その行為が総務省の「地デジ」キャンペーンに掉さすものだからである。総務省は放送業界の首根っ子を押さえている。このことの意味を考えずに、今回の問題を論ずることは出来ない。
 若者が泥酔した挙句に、真夜中の誰もいない公園でスッポンポンになった。それだけのことである。これが薬物使用等の重罪に繋がるのであればまた見方も異なろうが、今のところ、薬物検査や家宅捜索の結果も問題ないということである。また本当のところ、「地デジ」キャンペーンに総務省が考えるほどの障碍になるかどうかも分からない。そんな程度の話に目くじらを立てることこそ、日本人の矜持が問われると言ってよいであろう。
 騒動を大きくした鳩山邦夫さん自身多くの問題を抱えている。彼はイスタブリッシュメントの申し子ではあるが、それほど優れた政治家とはどう考えても思われない。今回の件でもし本当に「地デジ」論争が再燃するのであれば、徹底的に議論すればよい。「地デジ」などそもそも国民不在のお役所仕事のなせる業である。東京中央郵便局やかんぽの宿で男をあげたように、「地デジ」も引っくり返せばよい。その方が大向こうも拍手喝采であろう。
 結局鳩山さんのおやりになったことは、霞ヶ関の尻馬に乗っていることでしかない。鳩山さんご自身はどうお考えか分からないが、今回の事件でますます自民党は支持基盤を失うこととなろう。テレビでは「草なぎ君かわいそう」という声が圧倒的である。それが民意というものである。鳩山さんをはじめ自民党の先生方は、民情を少しも分かっておられない。
 鳩山さんも私の大嫌いな世襲議員であり、選挙区は母方の縁故頼みである。大学を卒業後直ぐに政界に飛び込み、生きるために苦労して、ご自分でしっかりと稼いだ経験はありにはならないはずである。自分の守られた人生を棚に上げて、コツコツ叩き上げて今の地位を築いた若者の将来を奪う権利は、少なくとも鳩山邦夫さん、貴方にはない。それが民意であるし、民情である。残念なことであるが、貴方はやはり何もお分かりになっていない。