茶番の週末:北の「飛翔物」

 既に旧聞に属するかも知れないが、花見で賑わう昨週末の日本列島に、北の「飛翔物」が興を添えた。北の飛翔物が飛んで来るということで、政府・自治体、マスコミは大童であった。ここで敢えて飛翔物と書いたが、これもミサイルか人工衛星か識別されないことに端を発する「混乱」のなせる業・象徴である。
 北の実験は勿論けしからないこととして、問われなければならないのは政府の対応のお粗末さである。4日の「発射誤認」の大チョンボを始めとして、自治体レベルでの電報ゲーム的情報錯綜まで、お粗末極まりなかった。今回の騒動でつくづく感じたのは、この国の政府は、どこまで真剣に国民と国土を守るつもりがあるのだろうかということである。
 私の記憶では、麻生さんは最初、米国と協力してPAC3イージス艦を動員し、ロケット打ち上げがあれば、それを打ち落とすと確かに仰った。これは、それがミサイルであろうが、人工衛星であろうが、兎に角打ち上げられれば必ず迎撃するものと理解していた。それが、最終的に、打ち落とす対象物は領土内の落下物というようにトーンダウンしてしまった。
仄聞するところによれば、麻生さんに対して、打ち落とせば支持率がアップすると囁いた人物がいたのだそうだ。そうした甘い囁きに対して例のごとくあまり深く考ずに、迎撃作戦に乗ってしまったというのが、今回の真実であるのかもしれない。
 支持率と迎撃。これを本当に天秤にかけたのだとすれば、許せない大暴挙である。それにしても、それらを含めた対応は非常にお粗末であった。これでは日々臨戦態勢を組む、北には対抗出来ないことは明らかである。金正日さんを笑い飛ばすどころの話ではない。
 今回のお粗末さを感じたのは一部繰り返しになるが、第一には、政治的獲得目標が定まっていなかったこと。それがミサイルであっても何であっても、わが国を直接的ターゲットとしたものではなく、発射阻止をアピールするのであれば、まず政治的獲得目標を政府としては明確にすることが必要であった。
 第二には、迎撃に対するトーンダウン。これはミサイルではなく、人工衛星であった場合に配慮したということであろうか。最初の勢いが尻つぼみで、如何にも竜頭蛇尾であった。こんなことでは仮想敵国相手の心理戦などとても戦うことが出来ないであろう。
 第三には、発射の誤認。真相配備したレーダーの読み取りを間違えて、4日にミサイル発射の誤報を流したのは冗談で済まない。防衛庁の内部でどういう納め方をしたのか知らないが、これは内部的な処分で済む話ではないであろう。国家存亡の危機を託せる状態だけははっきりした。
 第四には、PAC3運搬車の事故・立ち往生。これも笑って済ませる問題ではない。極めて重要な国防兵器の運搬中に道を間違え、挙句の果てに進むも退くもままならなくなった無様さには、呆れてものも言えない。今回は事前の発射通告があったわけだが、不意打ちを食らった時にはどうなるのだろう。毎年GDPの1%以上もの血税を割きながら、この有様では何をか言わんやである。
 第五が、自治体レベルの混乱。これは自治体の責任というより、国の責任であろう。危険対策が、「落下物が当たるといけないので、通報した場合には建物の外に出ないように」というものでは、正しく無策を曝け出したようなものである。国防意識に乏しく、日頃の訓練もままならない状況で、付け焼刃には対応出来ないということである。
 このように全くお粗末さのオンパレードで、書くのが嫌になってしまう。この調子では北に舐められるだけで、何を言われても仕様がないであろう。本当か嘘か知らないが、一国の首相が人気取りのために、一時でもミサイル発射を考慮したのだとしたら、「舐めんなよ」。これ以上の言葉が見つからない。
 それにしても枯れ尾花の幽霊に怯えて、ミサイル発射にまで至らなかったことは、まだ救いとすべきであろう。防衛庁防衛省に昇格させたのは、何のためであったのだろうか。いざという時に役に立たない軍隊ほど鬱陶しいものはない。兎に角、徒労感ばかりが残る茶番の週末であった。