大型店の地域破壊:丸井今井の破綻に思う

 先月29日、たまたま札幌に出張している時に、当地の老舗百貨店丸井今井民事再生法の適用を申請し事実上の経営破綻になるという報に接した。最近は滅多に出掛けることのない札幌に偶々滞在している時に、このバッドニュースに出くわしたことは妙な気分であった。札幌の百貨店についての懸念は9月12日の本欄で書いた。だが丸井今井の破綻が目の前に迫っていることまでは、その当時は事情に疎く知らなかった。なお加えて、西武が北海道からの撤退を考えているということでもある。9月に書いたことを再度以下に示すこととする。
 「元々北海道は植民地経済の色彩が強く、本州大手資本の進出が目立っていた。しかし近年はそれに一層輪をかけているのである。JR札幌駅周辺には大丸、西武、東急が軒先を並べ、地方色が全く感じられない。東京だってこんなに狭い地域に百貨店が集積することはない。大手百貨店の進出は局面的には雇用拡大、消費拡大に繋がるかもしれないが、大手の進出は地元の商店を淘汰するのが常である。結局時間を経ると、マイナスが多くなってしまうことはよくある話である。進出が呼び水となって新たな付加価値が創造されるのでなければ、大手進出の意味はない。北海道に限らないが、域外大手の進出は手っ取り早い経済活性化策として歓迎する向きが多い。だがその本質が植民地経済化であることによく思いを馳せるべきである。域内の所得を奪ってしまうからである。」
 心配が端無くも現実となってしまったということだ。大型店の問題は勿論北海道に止まるものではない。大型店の地方進出は2000年に旧大店法大規模小売店舗法)が廃止されたことにより全国的に一層弾みがつき、功罪両面が指摘される中で一種の社会問題化していることは周知のところであろう。
 話は飛ぶが、私が以前勤務した四国のとある県庁所在地には、百貨店はそごう、スーパーはダイエージャスコなどが進出していた。ご他聞に漏れずこうした大型店が進出する一方、古くからの商店街は「シャッター商店街」となり、地元資本のデパートなども潰されてしまった。札幌は大都会なのでまだしも、このような県庁所在地とは言っても人口20〜30万人規模の市ではその影響は目を覆うばかりである。
 そごうの破綻騒ぎの時既に私はその市を離れていたが、真剣に心配した。結局その地のそごうは営業を続けることとなり事なきを得たが、地場の百貨店が潰れた上に、そごうまで無くなってしまえば百貨店というものが一つも無くなってしまう。県外資本であっても地元資本であっても、地方における百貨店の存在意義は中央で想像する以上に大きい。百貨店は生活文化の伝播役を担う重要な存在だからである。
大手百貨店が勝手にやって来て地場の市場を蹂躙し尽くし、その上で都合が悪くなったから「はいサヨナラ」で済むことではないのである。地方に進出する大手百貨店にはまずその覚悟が必要ということである。以前西武は百貨店が文化産業の担い手であることを盛んに喧伝していた。北海道からの撤退はそうした役割の放棄という理解でよいであろうか? いずれにしても四の五の理屈はどうでもいい。兎にも角にも百貨店は、地域における生活文化の守護神という自覚が第一と心得たい。そうした自覚をもって経営に当たれば、下手なCSRなど無用の長物である。そうした脈絡の中では、百貨店の撤退はそれだけ意味合いが重いということである。
 百貨店のことばかり言って来たが、大型スーパーも同じことである。私が住んでいるのは東京近郊の新興住宅地であるが、ここ数年の間に駅前の開発が急速に進み、その核店舗としてイオンが進出し、シヨッピングセンターも出来た。またその一方で地元商店街が壊滅状態となり、“私”御用達の酒屋さんも潰れてしまった。ところが天下のイオンも消費不況の影響から、闇雲な拡大路線を手仕舞いし、今度は一転して店舗の閉鎖を進めるのだというのである。わが街のイオンが仮に撤退することとなれば、古くからの商店街を潰し尽くした後である。大変な迷惑を蒙る。
 以下は閑話休題。イオン・グループの創立者岡田卓也さんは民主党副代表の岡田克也さんのお父さんである。克也さんは首尾よく民主党政権が誕生した暁には、小沢さんの後を襲う勢いの大政治家である。そのご当人にお父上のDNAが受け継がれているものとすれば、ちょっと心配である。耳障りのよさの陰に鎧がちらちらということであっては困るからだ。
 丸井今井の経営破たんから大型店進出の諸問題に思いを馳せた。大型店進出は冒頭指摘したように、当初の効果は効果として問題は、然る後に所期の成果が得られるか否かということである。多聞にそうした効果が小さいということであれば、来るもの拒まずという姿勢ではいけない。はっきりとした拒否が必要である。その拒否が充分でなかったことが、今日の地方の疲弊に拍車を掛けている。
 大型店の問題に関しては、まず行政が悪い。行政としては魅力ある街づくりに関する百年の計が要される。だが一時の税収目当てに百年の計で街づくりを考える地公体は少ない。また地場に本当に必要な資本は地元と共に生きる資本である。しかしそうした感覚は地域において極端に希薄である。北海道であれば、拓銀はどんなことがあっても潰してはいけない存在であった。北海道の長期低迷の大きな要因の一つは拓銀を破綻させてしまったことにある。
 そもそも旧大店法が廃止されて、新大店法大規模小売店舗立地法)が制定されたのは、グローバルスタンダードの名の下に、外圧が跳梁したことが最大の要因であった。新大店法なども私が言う「制度不況」の最たるものである。つまらない理屈に雁字搦めになっているから、何時まで経っても展望が拓けないのだ。百年に一度の危機という認識が本当にコンセンサスを得ているのであれば、革むべきはどんどん革めなければならないということであるはずだ。