観光政策を中心に札幌で考えたこと

 先週は札幌に行って来た。愛して止まない札幌であるが、苦言を呈さなければならないことに気が重い。
 昨年9月に行った時に書こうと思って書かなかったのが、雪印パーラーでのこと。この店は昔は観光客のみならず、美味しいスウィーツをリーゾナブルな値段で提供することで人気の札幌っ子憩いの場所であった。しかし懐かしさに駆られて食べたアイスクーリームに本当にがっかりした。今となってはそれほどの美味ではないにも拘らず、値段が矢鱈高いのである。食べきれないほどの量は値段を高くするためか? 魂胆が見え見栄なだけに全く興ざめということであった。
 こんな商売をしていては札幌も先がないなと思いつつ、雪印自体がああいうことになったのでこれも仕方がないことかと、その時は矛を収めた。だが先週入った居酒屋でまた同じ思いに駆られたところから、食い物ばっかりで意地汚い気もするが、やっぱり書くこととした。愛する札幌故の苦言である。
 入った居酒屋は七番蔵という。これは、明治11年創業を誇る道内の造り酒屋小林酒造が経営する店とのこと。ここで造られる酒は北の錦。洞爺湖サミットでも供され知る人ぞ知る存在である。ここでの不満も値段であった。内容の割りに値段が高すぎるのである。地酒3種の利き酒セット、珍味セット、海鮮炙りセット。利き酒セットなるものはそれぞれが5勺弱の量、珍味セット、炙りセットも量が極めてお上品。洞爺湖サミット有名税もあってか、これで総額4千円。
 高いか安いかの判断は難しいことは百も承知である。だが私はかなり高いと感じた。最近地方に出掛けることが多く、例えば最近行った福岡と比べてみたい。福岡で行った店も七番蔵と同じようなコンセプト、同等レベルの居酒屋である。ここでお酒は地酒3合と焼酎1杯。料理は珍味セットに、呼子のいかと鶏の水炊き。どれもこれも地の名物。それで6千円程度だったと記憶する。
 軍配は完全に福岡。札幌の店は2倍方高い。私はこれまで色々な面で、札幌と福岡は甲乙付けがたいライバルと思って来た。ところがこれは経済状況の反映なのかもしれないが、食べ物だけではなく、福岡と札幌の差は拡大する一方である。北海道出身の私にとっては残念至極なことである。
 それともう一つ。これも食べ物で恐縮であるが、カルビーじゃがポックル。ポテトチップッスの類である。一袋18g程度の小袋が10個入って840円。これは超人気商品で娘のリクエストながら9月には買えなかった。それがたまたま今回は手に入ったわけだ。しかしいくら美味くてもたかがポテチ。18gが80円はやはり高すぎるとの印象である。
 こうしたことが全てとは思わないが、価格政策としては完全に間違いであると思う。ものの値段はその目的とするところによって、多様な価格づけがされる。例えば短期的利益の最大化を図るのか、長期的利益の最大化を図るのでは、自ずから同じ商品であっても価格づけは異なる。
 観光産業はその土地と人情から離れては展開することが不可能であり、したがって短期的利益の最大化を目的とすることは得策ではない。観光客を鴨にして一時的に大きな利益を上げたとしても、長続きしなければ意味がない。観光産業が継続的に成功し続けるためには、なによりも適正価格でのサービス提供が鉄則である。東京に入ればおカネさえ出せば、北海道の美味しいものや、九州の美味いものをいくらでも口に入れることが出来る。折角現地まで出掛けているわけであるから、観光客が割安感を期待するのは当然である。
 たまたまということと私の偏見ということがあるにせよ、ここで挙げた3つの例は観光政策のイロハに反している。当局が民間企業の活動に立ち入ることは難しいかもしれない。だがススキノを全国で一番安全でリーゾナブルな歓楽街に仕上げたのは行政の力が大きかったからではないのか?
 言いたいのは、観光振興を謳い文句にする時には大きな意味でのコンセプト作りが必要だということである。その目指すところを明確にしなければならないということだ。その目指すところをはっきりさせないから、割高感を感じさせる商売が横行するのである。
 それともう一つ観光に大事なのはホスピタリティー。歴史にも文化にも恵まれない北海道が持つ唯一のソフト資産は、道産子の駆け引きのない正直さと素朴さである。それが北海道におけるホスピタリティーの源泉であるはずだ。だがそれも最近では失われつつあるのではないのか?
 しつこく語った割高な値段とホスピタリティー精神の喪失は、車の両輪であるのだと思う。昔の道産子であれば、こんな原価にこんなおカネは頂戴出来ないというのが常識であった。市場原理主義の影響とはまさか思わないが、頂戴出来る時に目一杯頂戴するという考え方は、道産子に似合わないし、そもそも観光振興の旗印に悖る行為である。
 しかしそれにしても道産子は何をしているのであろうか? 高橋はるみさんのような落下傘知事を戴いて有難がっているようでは、情けなさすぎる。中央頼みのおねだり経済は破綻しているのである。それに気づかないでいれば、北海道の再生は絶対にない。そう断言してよい。愛するが故についついきつくなってしまったが、たまたまこの半年に2回訪れた札幌から感じたことである。意のあるところをお汲み取り頂きたい。