日本電産永守社長の英断:ワークシェアリングの薦め

 10日(土)付け読売朝刊に、日本電産(永守重信社長)が「一般従業員1万人を対象に賃金カットを実施する」ことを表明したとの記事が掲載されていた。これは、同社従業員の基本給を1〜5%をカットすることとし、管理職についても1月から2.5〜5%、2月から7.5〜10%の減額を実施するという内容である。なお永守社長自身は12月から役員報酬を既に30%カットし、この1月からは更にそれを50%に拡大するということでもある。ただし業績が回復すれば、こうした賃金カット分をボーナスで埋め合わせることについて併せて表明されているわけである。
 今回の賃金カットの目的は同社永守社長によれば、「全社で危機感を共有して赤字転落を予防するために、事実上のワークシェアリングとして実行する」ものと説明される。従業員の賃金カットは当然のこと望ましいものではない。だが百年に一度の経済危機が喧伝される中では、企業の危機対策としてワークシェアリングの採用は、全企業が真摯に取り組むべき最重要課題である。
 なおこれに関しては、労使双方の思惑から足並みは揃はない(例えば日経新聞10日付朝刊「ワークシェア 悩む労使」など)。主として使用者側は実施に際しての技術論、労働者側は賃下げへの心理的抵抗が強いということである。しかし労使がもたもたしていれば会社は本当に潰れてしまう。これこそ合成の誤謬である。心ある経営者が「会社の第一の使命は雇用を確保すること」と公言して憚らないことに耳を傾ければ、問題の解決は決して難しくないはずである。
 翻って私自身以前勤めていた会社で賃金カットの旗振りをした経験を持つ。この時は社長報酬を実に70%カットし、一般社員は定期給与を減額しない代わりにボーナスゼロとした。そしてその一方で新卒内定者を含め一切馘首は行なわなかった。一般従業員に迷惑を掛けたことは否定すべくもないが、社長が率先して痛みを甘受したこともあって、大方の理解は頂けたものと理解している。考えるまでもなく、雇用と賃金カットを天秤に掛ければ結論は自ずから明らかである。もし賃金カットに不満であれば、自らが辞めれば済むことである。
 もっともこうした措置をとる場合には配慮すべきことが幾つかある。第一が住宅ローン等の負債、第二が教育、第三が自分を含めた家族の健康等々である。衣食等に関する節約は出来たとしても、これらの問題はどうしても残ってしまう。これらに配慮しなければ、社員はことごとく多重債務者となってしまう。また更には前年の所得に課せられる地方税の問題は現実的に非常に悩ましい。地方税は元々の所得が高い人ほどその影響が大きい。こうした徴収方法の不備が少なからずワークシェアリングの阻害要因となることに、政府は気づくべきである。
 いずれにしても企業の存続を図るために、馘首を先行させるのか、ワークシェアリングを先行させるのかということは、単なる経営技術論などではなくその裏には、「企業とは何者か」という極めて本源的な問題が突きつけられていることを忘れてはならない。災い転じて福ということであれば、米国式経営の呪縛から解き離れたれた今こそ、経営の正道を探るべきである。これは決して小手先の対応などで済ますということではなく、われわれの真に住み易い国を作るべく、今後の百年を睨んだ新たな制度設計を始めなければならないということである。