金利引下げで日本型デフレの懸念

 12月4日付のフジサンケイ・ビジネスアイ紙に、「日本型デフレ引き起こす−地区連銀総裁、利下げを牽制」という注目すべき記事が掲載された。これは米セントルイス連銀のブラード総裁の発言をベースに書かれたものである。
 同総裁は「過去10年間の日本の物価が極めて低い水準に止まったことをより懸念する」とし、「日銀は”ゼロ金利”政策に踏み切ったところから、デフレに自ら陥り、ゼロ金利で膠着状態となった」と指摘したということだ。
 少々分かりにくいかもしれないが、要するにこれは、「金利引下げ=景気回復」という単純な方程式ばかりではなく、金利を引き下げることによってマイナスの効果が生じることを指摘しているわけである。例えばこうしたメカニズムとしては11月14日付本欄で書いたように、有利子資産に関する所得喪失効果が発現することによって、個人消費が影響を受けることなどが考えられるということだ。また金利は景気の代理変数であり、金利が低いということは景気が悪い状態であることを示し、心理的シュリンク効果を齎すことともなる。
 他方”名目金利”はゼロ以下に下げようがないわけである。ゼロになってしまえばさらなる政策手段としての役割を喪失してしまう。加えてその時仮に物価がマイナスとなるようであれば、実質金利は期待に反してプラスとなり、その分景気回復の足を引っ張ってしまうことともなる。つまりここでは金利政策はもはや有効性を欠いてしまうということである。
 そうしたところから、ブラード総裁はしたがって、景気回復のための政策には金利政策以外の手段が割り当てられなければならないと主張する。先に私が指摘したから言うのではないが、やはり実態経済に即せばこうした考え方こそ有効であると考える。
 条件反射的に「景気浮揚には金利引下げ」「景気引締めには金利引上げ」というステレオ・タイプが一般的な政策対応であるが、本当はその時々の前後左右の条件を充分に検討しなければ折角の政策が逆効果となってしまうわけだ。
 「科学ならぬ科学」である経済学の呪縛に縛られるのは愚の骨頂である。時々に置かれている条件をよく熟考し、自分の頭で考えるのがエコノミストの仕事であるはずである。だが100年に一度と言われるような経済危機に瀕しているにも拘らず、そうした作業の跡が如何にも少ないと感じるのは私の誤解であろうか?