麻生さん!

 週刊朝日の今週号によると、有名になった「踏襲=ふしゅう」に限らず、「頻繁=はんざつ」「詳細=ようさい」「未曾有=みぞゆう」「有無=ゆうむ」など、麻生さんの漢字の読み違いは数多とのことである。これらは中学までにきっちり学べば絶対に間違わないはずのものである。
 翻って麻生さんは英語がお達者なのだそうである。オバマさんとも通訳を入れずにさしでお話になったということだ。確かにスタンフォードの大学院やLSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)に留学した実力から言えば、当然のことであろう。米の高校留学経験だけで怪しげな英語を操って物議を醸した田中真紀子さんなどとは格が違うということであろうか。
 だが不思議なのは麻生さんは華麗な留学経験をお持ちにも拘らず、お持ちの学位は政治学士だけである。そう言えば安倍晋三さんも成蹊を出たあと、米USC(南カルフォルニア大学)にお入りになったそうだが、ご卒業になったことは聞かない。同じような出自のお二人ともに、学業において同じような経緯を辿られたことは実にミステリアスである。
 ところで歌手の宇多田ヒカルさんはアメリカン・スクール出身だけあって、英語がペラペラである(のように見える)。だが彼女の日本語はかなり拙い。テレビで見るだけであるが、ちゃんとした日本語を話すことが出来ていない。誰に対してもタメ語であるのはご愛嬌を通り越して見苦しい。そう言えば彼女もコロンビア大学に留学したと聞いたが、卒業はしたのであろうか?
 『国家の品格』の藤原正彦先生は、自らが語学の天才であるにも拘らず、小学時代の勉強は「一に国語、二に国語、三四がなくて、五に数学」と仰る。小学生に英語など教える必要がないということである。藤原先生は英語を学ぶ暇があれば、きっちりとした日本語を身に付けるべきであることを主張されて止まない。また石井式漢字教育で有名な石井勲先生は、「幼児期からの漢字教育が日本人の知力向上に絶大な効果がある」ことを終生唱えられていた。お二人の先生ともに日本語教育の重要性を説かれ、その基本が漢字であることを指摘されるのである。
 だから私は日本国の総理大臣の漢字力が中学卒レベルでもないことに、恥ずかしさを通り越して真底から危機感を感じるのである。義務教育レベルの漢字もマスターしていないことは、日本語の能力もそのレベルと推測されるからである。国際会議や首脳会談では、ロシアや中国の首脳は頑として自国語しか喋らない。ロシア語が分からなくても、中国語が分からなくても、彼らの気概は充分に伝わって来る。これは彼らが母国語をしっかり話す能力を備えているからであろう。
 政治家にとって国語の能力は何よりも重要な素質である。政治家は民の声を聞き、自分の考えを伝え、議会で議論し、法律を作ることが仕事である。これには全て高い国語の能力が要求される。仮にレベルの低い?大衆はごまかせたとしても、法律作りではそうはいかない。国語に長けた官僚を相手にしなければならないからだ。頭のよい官僚は国語能力の低い政治家を即座に見切り、内心軽蔑しつつ面従腹背することとなる。その繰り返しである。このことが官僚内閣制の基本構図を支える。だから何時まで経っても、本来的な議院内閣制への回帰は掛け声倒れに終わってしまう。公務員制度改革の本質もここにある。
 一国の総理の国語能力の低さはタレントのお馬鹿ぶりを楽しむのとは訳が違う。麻生さんが総理の椅子に拘るのであれば、誰かが言ってたように、『クイズ・ヘキサゴン』にでも出演して島田紳助さんの教え?を請わなければならいであろう。しかしそうは言ってもテレビでは大笑い出来ても、国会ではそうはいかない。草葉の陰で大久保利通牧野伸顕らの絢爛たるご先祖様がさぞかしお嘆きになっていることに、麻生さんは早くお気づきになるべきである。