朝日新聞の世論調査に思う:「給付金不要」は国民の覚悟

 11日付朝日新聞のトップに、”給付金「不要な政策」63%”の見出しが掲げられていた。これは同紙の世論調査(11月8・9日)の結果であり、併せて内閣支持率が37%と前回調査(10月25・26日)から低下し、不支持率の41%を下回ったことも示されていた。
 定額給付金は10月30日に決定された総額27兆円(真水分約5兆円)に上る追加経済対策の目玉である。これを国民は「不要」と判断したのである。1人12,000円〜20,000円という給付金はあればよいと考える家庭もあろうが、大勢が「不要」と判断したことの意義は大きい。また大盤振る舞いの経済対策を打ち出したにも拘らず、内閣不支持率が支持率を上回ったことの意義も大きい。
 麻生さんはこのことの重大性にお気づきなのであろうか? これは間違いなく、麻生さんを始めとする全政治家に対する国民の宣戦布告である。追加経済対策は事業規模27兆円と数字だけは勇ましいが、飽くまでも27兆円というのは期待値にすぎない。またその中身を見ても、給付金と並ぶ目玉としてあげられているのが、ETC搭載車の高速料金優遇(どこまで行っても1,000円)というお粗末さで、他は中小企業の金融措置を始めとする相変わらずのお馴染み策である。
 本欄で何度も書いているように、古典的な経済対策はもう無理なのである。敢えて財政支出を増やしても、またぞろ借金の山である。政府の借金は国民の借金である。政治家先生がかってにばら撒いてよいはずのものではない。国民はそのことに気づいたのである。だから給付金など「要らない」と言っているのである。そうした脈絡の中では納得の行く理由さえきっちり示されれば、消費税率の引き上げだって一概に否定されるものではないであろう。
 国民は腹を括っていると言ってもよい。この国難とも言うべき未曾有の危機に政府が無力であることに気づいた国民は、小手先の対応には食指を動かさない。国民が真に求めているのは、生活の安全保障である。「この国に生まれてよかった」と素直に思える気持ちを持てるようになることである。
 そうした国民の期待に対して、これまで政府がやって来たことは、年金、医療、食の安全、金融システムといったライフラインの破壊である。国民の生存権の否定である。災害の時にまず第一に求められるのはライフラインの確保である。現在われわれが直面している災厄に対して有効なのは、生活の安全を保障するライフラインの速やかな再構築である。それ以外に有効な対策はない。
 考えて見よう。追加対策という代物は降りかかる火の子の中で、「さあドライブで楽しみなさい、さあ家を新築しましょう」と言っているようなものである。生命の危機に瀕している時に、どうしてそんな悠長なことが出来るであろうか?
 それが分からない政治家先生に国民は倦んでいる。麻生さんがホテルのバーに夜な夜な出没することに非難が集中している。これに対して、麻生さんは「他で飲むより安い」と仰る。それは確かにそうだと思う。だがホテルのカクテル1杯の値段で、ジョッキビールとそこそこの肴でほろ酔い気分が楽しめる世界もあるわけだ。
 国民の目線と言うのは、思いつきで秋葉原に出かけたり下町視察をすることではない。オバマさんの政治の原点はシカゴのスラムだと言う。その原体験への共感と”change”を求める国民感情が相俟って、初めての黒人大統領を誕生させた。「国民の本当の苦しみを分からない人に、もう政治を任せることは出来ない」というのが、今回の朝日の世論調査結果である。このことは与党の先生方だけではなく、野党の先生方に向けられていることも見逃してはならない。