景気の先行きを株式市場に聞くな!

 14日のNY市場ダウ工業株30種平均は、前日比76.62ドル安の9310.99ドルと小反落となった。場合によってはもう少し乱高下するかと見ていた割には、あまり大きく変動しなかったとの印象である。ただ余談は許さない。今後当面は米国10000ドル、日本10000円ラインを巡っての攻防が続くのではなかろうか?
 株価が急回復を期待出来ないのは、市場が景気の先行きに対して不安感を抱いているからだと言う。だが10月2日の本欄でも書いたとおり、市場って一体誰のことなのであろうか? 市場を動かしているのは一握りのストラテジストとかアナリストと呼ばれる人たちである。ざっと言えば、ストラテジストが経済環境を予測し、アナリストが個別企業を研究するという役割分担であろうか。ただ彼らは彼ら自身の政策意図で動く傾向があるところから、本当は彼らの言うことをまともに聞けない面もある。
 個別経済主体の積み上げがマクロ経済を形成することは間違いないが、逆にマクロ経済が個別経済に影響を与える場合も多い。この場合のマクロ経済は「景気見通し」と言い直してもよいかもしれない。景気見通しが個別経済から離れて一人歩きすることが多々ある。それが美人投票である。美人投票は自分がこれぞと思う人ではなく、多くが選びそうな人に投票することである。市場が狼狽すると兎角その傾向が強まる。パニックということである。
 こうしたことの片棒をストラテジストやアナリストの皆さんが担ぐのであれば、私に言わせればこれは皆さんの職務放棄である。景気が悪くなるから担当企業の業績が悪くなるなどと、当たり前のことは絶対に言わないで欲しい。それだけが見通しの根拠であるとすれば、高額の報酬など返上してどうぞ商売替えして欲しい。
 世界一の資産家であるW・バフェットさんは、こうした状況下でもGEを始めとして自分の目で確かめた企業の株を買い進めている。彼は世界経済の先行きが怪しいから投資を止めたなどとは決して言わない。勿論投資家であるから、われわれ凡人に量り切れない思惑をお持ちなのかもしれない。だが事実として株を買っていることは事実である。
 景気の見通しは極めて困難な作業である。それは不可能と言ってもいい。にも拘らず、年末には性懲りもなく見通しコンテストが行なわれる。その見通しが当たったかどうかは、次の時点の予測でクリアされてしまいよく分からなくなってしまう。仮に外れたことを責められたとしても、「予想のつかない与件の変化があった」の常套句で逃れてしまう。
 景気見通しなんて所詮そんなものだということは、賢明なストラテジストの皆さんは先刻ご承知のことであろう。にも拘らず、今後の株価が皆さんの判断に委ねられるとしたら、その発言の罪は重すぎる。株式市場がこれだけ世界中で国民経済に組み込まれた以上、「どうぞ”株屋根性”だけは脱して欲しい。高額報酬に対する責任を全うして欲しい」というのが切なる願いである。