AIGの危機−保険会社のデシプリン−

 米第四位の証券会社リーマン・ブラザースが経営破綻した。一方で米最王手の保険会社AIGは政府からの支援が決定し破綻を免れた。米政府は「私企業は救わない」という政府方針を変えて、AIGを救済したわけである。
リーマンもAIGも広義の金融機関であり、破綻した場合の影響は世界の津々浦々まで限りなく大きい。だが証券会社は救われず、保険会社は救われた。
 私企業との契約は証券であっても保険であっても無論自己責任である。ただ公的健康保険制度が整備されていない米国にあっては、保険会社の位置づけがわが国などと違って格段に大きい。AIGが救済されたのはそうした理屈が働いたからであろう。
 しかしながら考えるべきは保険会社のデシプリンである。M・アルベールは『資本主義対資本主義』の中で、保険について、アングロ・アメリカ型では”価格重視”性が強いこと、アルペン型では”機能重視”性が強いことを指摘した。
 ”機能重視”性というのは、きっちりと保険を保険として機能させることを重視する立場である。価格は高くなるかもしれないが、運用において高リスク商品への投資などは基本行なわない。
 AIGは米国の保険会社であり、当然”価格重視”型である。そうした経営スタンスが今回の危機を産み出した。”価格重視”型は”市場重視”型であり、”短期利益重視”型でもある。
 翻って主としてガバナンスの観点から「会社は誰のものか?」という”不毛”な議論がある。「会社は株主のもの」という考え方が主流である。会社が株主のものだとすれば、常に株主価値(株価)を最大にするよう行動しなければならない。株主価値を最大にするためには常に”短期的”利益の極大化を図り続けなければならない。
 しかしながらアルペン型に代表されるように、利益の極大化だけが企業の目的ではない。極めて素朴に考えて、「提供する商品・サービスに責任を持ち続けること」こそ企業にとって大事な目的である。保険会社なら保険という商品を、消費者の安心が行くよう安定的に提供するということである。それが結果的に企業の継続性を保証し、”長期的”利益の極大化をもたらすこととなる。
 企業の在り様は英米型が唯一ではない。大事なのは消費者が期待する商品・サービスを提供し続けることである。そのことをAIGの破綻危機から考えた。