T・クランシーに学ぶ:米国の憂鬱

T・クランシーはアメリカの作家である。彼の作品はジャック・ライアン・シリーズを中心に、わが国でも多くのファンを獲得している。ジャンルは国際政治ミステリーとか軍事ミステリーと言えばよいのであろうか。
彼の作品はエンタテーメントとしての面白さは勿論であるが、予見性に満ちているところが非常に魅力的である。
たとえば『日米開戦』という作品では日米間の貿易摩擦に端を発して、最終的に両国間で戦争に陥るさまが描かれるが、ここに日本を陰で支える存在として中国とインドとロシアが登場する。ブラジルが抜けているだけでこれは今を時めくBRIC’sである。
世界に冠たる経済力を誇る(当時)日本が、米国との間で陰に陽に展開される抗争の中で、仲間をBRIC’sに求めざるを得ないというプロットである。バブルを経て日本経済は凋落してしまった。しかしBRIC’sの勃興は見られるとおりである。優れた作家の想像力は凡人には及びも付かないいうことである。
ところでこの8月に翻訳出版されたそのクランシーの新作では、米国における保守主義の台頭がテーマとされている。米国は世界の警察官として世界秩序の維持に大きな貢献をして来たはずなのに、同盟国でさえもはや言うことを聞かない。そっちがそっちならこっちにはこっちで考えがあるということがそのプロットである。
米国はアフガン、イラクの後始末、京都議定書の批准、ドーハ・ラウンドの推進と相変わらず多くの課題を背負い続けている。さて米国はこれからどんな道を選択して行くのであろうか。大統領選挙の結果が注目される。