「資本主義」対「資本主義」

フランス保険業界の重鎮M・アルベールに、『資本主義対資本主義』という名著がある。
ここでは社会主義(計画)経済が自己崩壊を遂げる中で、新たな対立軸が「資本主義対資本主義」に移行することが予見されている。
二つの資本主義というのは、一つが米英を中心とするアングロ・アメリカン陣営であり、これは「市場至上主義」経済と言ってよい。また今一つは欧州大陸を中心とするライン陣営あるいはアルペン陣営であり、達観すればこちらは「混合経済主義」経済と言ってよいであろう。因みにわが国は後者の一翼を占めるとされ、しかもその優等生とも評価されている。また両者の比較において、システムとしては後者が前者を圧倒することも指摘される。
しかしながらアルベールによれば、そうした優れたシステムを保持するにも拘らずライン陣営は敗退し、最終的にはシステム的に劣るアングロ・アメリカン陣営が勝利を収めるとするのである。
ここから想起されるのはグローバリズムの非道である。グローバル・スタンダードアメリカン・スタンダードと言ってよいことはもはや誰の目にも明らかであろう。
グローバル・スタンダードがまだ耳新しかった頃のこと。二人のドイツ人銀行家と話をしていて、その話題に触れた時、二人が声を揃えて"It's American Standard"と言い直した場面が懐かしく思い出される。当時からその本質は既に見抜かれていたのである。
アルベールはアングロ・アメリカン陣営の勝利を予言する。ところが最近そうとばかり言えない兆候がいくつか見られることも事実である。
たとえばその一つが会計基準である。「”米国”会計基準」は世界一厳しい基準としてよく知られている。ところがこの基準は理想がかちすぎ、実際の企業活動に多くの支障をもたらすものであるところから、欧州を中心に新たな「”国際”会計基準」が作成され、アメリカもこれに倣わざるを得ない状況となっているのである。
戦後アメリカは憧れの国であった。そうしたところから彼の国が少々羽目をはずし、多少のやんちゃをしても認めてしまうところがあった。アメリカに留学さえすれば箔が付く時代もあった。心のどこかであからさまにアメリカを批判することが憚られる雰囲気もあった。
ところが会計基準の問題に見られるように、アメリカはもはや良き先輩ではなくなっており、その”張子の虎”ぶりが一層のことあからさまにもなって来た。アメリカに倣い、学ぶべき点は学べばよい。だがアメリカを全面的に受け入れる時代ではもはやない。アメリカ”経験者”は特にそのことに留意すべきであろう。少なくとも市場は万能ではないし、最善の”次善の策”でもない。「真理は中間にあり」は多聞に正しい。