マニフェストはアラカルトに

 先週の日曜日に麻生総理がわが街に遊説に見えた。狭い駅前は麻生さんが到着する随分前から満員御礼の大盛況で、ご本人が到着したときには女子高生から黄色声援があがり、その人気の強さには正直驚いた。麻生さんご自身もだいぶ気をよくされたようである。麻生さんが出向けばやはりそれなりに集客力はあるようだ。腐っても何とかかもしれないが、さすがである。
 しかしながらこうした麻生人気をもっても、選挙選終盤になっても民主党の勢いは止まらないようだ。単独再可決が可能な320議席をも窺ういきおいということである。今回の選挙では個人的にも民主党を応援しているが、ちょっと勝ちすぎかもしれない。
 昨日会社帰りに降り立った駅頭で、民主党応援の弁士が盛んにマニフェストの宣伝をしていた。彼が言っていたのは、「民主党マニフェストを選挙が終わっても捨てないで、その実施状況をチェックして欲しい」ということであった。マニフェストの実行に絶対的に自信を持っているということであろう。だがこれは困ったことである。
 先般本欄でも書いたとおり、私は民主党を支持するが、マニフェストはほとんど支持しない。だからマニフェストを公約どおりに実行されては困るわけだ。そういう有権者は私以外にもたくさんいることと思う。因みに、先週時点の朝日新聞世論調査では、民主党は当選者数でこそ圧倒的な勢いであるが、目玉である子育て手当て、高速道路無料化には半数以上が反対の姿勢を示しているということだ。今回民主党を支持する人もマニフェストをそのまま実行されては困ると言っているわけだ。
 マニフェストマニフェストで結構である。しかしよく考えて欲しい。現在のマニフェストはコースメニューでしかない。民主党というコースメニューを選んだとしても、それは飽くまでも便宜上のことであって、その料理をすべて食べたいと思っているかどうかはまた別の話である。本当はアラカルト料理を選びたいのだが、政党はコースメニューしか提供しないから仕方なくそれを選ぶのだ。
 民主党が政権を奪取した暁には、そのことをよく考え直して欲しいのである。公約したからすべて実施しなければならないなどとは、ゆめゆめ考えないで欲しい。コースメニューはコースメニューとして、アラカルトの選択が出来ないのでは困ってしまう。アラカルト料理の選択を迫るのは野党の力である。したがって民主党を応援しつつも、民主党が大勝してもらっては困ってしまうというのが私の立場である。
 民主党への一番の「不安」は、右から左まで呉越同舟であることだ。そして特に輿石さんに代表される「左」勢力が、国旗問題、憲法問題をはじめとする諸問題で非常に硬直的なことが心配なのである。これまでも民主党は、与党の政策にきわめて硬直的に対処してきた。今後は与党対野党の対立に加えて、与党内右派対左派の対立がクローズアップされることになるはずである。
 そうした与党対野党、与党対与党の対立の現実的解決を図るためには、マニフェスト厳守などという硬直主義に走らないことだ。国旗掲揚の出来ない政権与党、憲法論議の出来ない政権与党ではなく、開かれた議論を戦わす中で、現実的な解決策を図る道を探るべきだということだ。そうでなければ、国民の半分以上が支持しないような政策を意地で実行した挙句に、中途半端に政権を投げ出して、また付けは国民回しということになってしまうだろう。
 民主党が優勢であればあるほど、また新たな頭痛の種。民主党は本当の国民目線とは何かをよく確認して欲しい。もっとも手っ取り早い解決の鍵は、政界再編成ということであるかもしれないのだが…。